空調施設栽培型菌床椎茸の栽培方法
この記事では菌床椎茸(学名:Lentinula edodes)の特徴や栄養成分、機能性をはじめ
菌床を使用した菌床椎茸の栽培方法(全面発生型)が分かります。
栽培後の廃菌床の利用についても記載しております。
椎茸の特徴
きのことしての特徴
ひらたけ科しいたけ属のきのこで(キシメジ科・ホウライタケ科・ツキヨタケ科ともされる)英名【シイタケマッシュルーム】とも呼ばれる。
シイ・クヌギ・コナラ等の広葉樹の倒木などに発生する木材腐朽菌である。
分布は日本をはじめ中国、東アジア・東南アジアニュージーランド・インドネシア・ボルネオ等に分布しています。
子実体は形状は傘と柄に分かれ所謂【きのこ】という形状をしている。
人工栽培の歴史は古くその歴史の古さ故に様々な見解があり正確な歴史は本項においては割愛します。
1970年代から菌床栽培による栽培が始まりましたがなかなか普及せず本格的に普及したのは1980~1990年ころに入ってからでした。
従来の椎茸は丸太に椎茸の菌を打ち込み山中などの屋外で培養・発生を行う原木露地栽培が一般的で式の温度変化を利用して秋や春の味覚として楽しまれていたが、空調設備型菌床栽培の普及と共に年間を通して安定的に供給できるきのこ類となり現代社会における食生活の多様性に大きく貢献しています。
今日に至るまで様々な工夫が行われ栽培方法が非常に多岐に渡るきのこの一種となります。
今回は現在最もスタンダードとされる空調施設における全面発生型の菌床椎茸栽培について解説します。
利用・栄養・健康
椎茸は日本人のほとんどから認知されているきのこで国民食の一つともいえる食材です。
特用林産物のきのこ類としても一番最初に名前があがるきのこは椎茸で日本人のきのこの歴史に深く関りがあるきのこです。
うま味成分のグアニル酸を豊富に含む事が知られ乾燥品に加工する事で酵素の働きによりグアニル酸がより一層増加します。
独特の臭気があり人によって細胞レベルで好き嫌いが分かれてしまうといった一面もあります。
生鮮の椎茸は香りや歯応えを活かした和食に多く使われます。ヒダを部分を上向きにおいて保存すると鮮度の低下を遅らせることが出来ます。
乾燥品の椎茸はうま味成分が凝縮され水やお湯で戻すことにより良い出汁がとれるので汁気のある料理に使用されることが多いです。
乾燥品は戻す際に時間をかけて中心部まで戻すことが美味しく食べる一番の秘訣ともいえます。
調理例:天ぷら・炊き込みご飯・味噌汁・きのこうどん・きのこそば・煮物・鍋物等
きのこ類全般に言える事ですがカロリーは低く水溶性食物繊維が豊富
特にうま味成分グアニル酸が豊富
ビタミンB群・ミネラル・免疫機能を向上させる多糖類レンチナン等が含まれる
調理に使用する前に日光に10分程度当ててから使用する事で更にビタミンDが増加します。
(上記は動物実験の結果を含むもので人体に必ずしも効果があるわけではありません)
低カロリーなきのこですので健康維持やダイエット中に積極的に食べたいきのこ類の一つとも言えるでしょう。
摂取の目安としては一日100g~150gとしきのこ類の大量の摂取は腹痛や下痢の原因になるので控えましょう。
一度に大量に摂取するよりも日々継続して摂取する事が大切です。
栽培方法の種類
空調施設型菌床栽培
本記事では空調型菌床栽培について解説していきます。
主原料となるオガと副原料となる栄養体を※PP/PE製栽培袋に充填しエアコンや超音波加湿器、吸排気装置を利用しきのこ栽培に適した環境を年間通して再現した室内で栽培する方法で現在椎茸栽培の90%以上がこの方法を利用しております。
空調施設型菌床栽培には以下の様な栽培方法があります。
・1.全面発生栽培
・2.上面発生栽培(半上面栽培)
本ページでは1.の全面発生栽培について解説します。
※PP(ポリプロピレン)PE(ポリエチレン)
簡易施設型菌床栽培(自然発生型)
エアコン等の機器を使用せずに四季の温度変化を利用した簡易施設による栽培方法です。
使用する菌床は上記の空調施設型菌床栽培と似た物を使用しますが、培地生成における原料(オガ粉)の違いや使用菌種(菌株)が異なります。
こちらも全面発生型・上面発生型両方があります。
詳しくは別記事で解説いたします。
露地型(簡易施設型)原木栽培
カットされた丸太に椎茸菌を接種し四季の温度変化を利用した栽培方法になります。
詳しくは別記事で解説します。
空調型菌床栽培の方法
菌床栽培
殆どの菌床栽培は以下(充填~収穫)までの6工程で行われます。
栽培に適したオガの選定から最適な収穫タイミングまで
各工程のポイントを解説していきます。
栽培時にお役立ていただければ幸いです。
充填
培地の基材(主原料)は広葉樹のオガ粉が基本となります。
菌床椎茸は接種から菌床廃棄までのサイクルが4ヶ月~8ヵ月程度と栽培期間が非常に長くオガ粉の選定がその後の栽培結果に大きく影響するのでオガ粉の選定は非常に重要と言えます。
オガ粉の樹種はシイ・クヌギ・ブナ・コナラ等の広葉樹であれば概ね問題ありません。
(分解が早い樹種シイ・サクラ/遅い樹種ナラ・クヌギ等がありますが割愛します。)
オガ粉の粒度(チップの大きさ)について解説いたします。
オガ粉の粒度について
オガ粉の粒度は栽培サイクルの長い菌床椎茸栽培において非常に重要な要因の一つでその後の栽培スケジュールや収穫量に大きく影響します。
オガ粉の粒度は
・【細い】腐朽速度が速く菌床が成熟するまでの期間が比較的短くそれに伴い菌床を使用できる期間も短い。
・【荒い】腐朽速度が遅く菌床が成熟するまでの期間が比較的長くそれに伴い使用できる期間も長い。
上記の様な特性があり栽培スケジュールや栽培方法により使い分けが必要となります。
オガ粉の製造業者は【細目(オガ粉)】【中目(チップ)】【粗目(チップ)】と異なる種類のオガ粉を扱っていることが多いです。
・短期間で菌床が完成する【空調設備型栽培】の場合【細目】及び【中目】のブレンド型が使用されることが一般的です。
・菌床の熟成に長期間を要する【簡易設備型栽培(自然発生型)】の場合【中目】及び【粗目】のブレンド型を使用する事が一般的です。
余談になりますが菌床ブロックの重量は大別して【1.3kg菌床(円柱状の菌床ブロック)】【2.5kg菌床(長方形の菌床ブロック)】と表記されますが使用するオガ粉の粒度やオガ粉の含水率により菌床の重量が200~300g程度上下する事があるので一つの目安として捉えてください。
培地栄養体(副原料)は米ぬか・ふすま・精選ふすま・ホミニフィード・乾燥オカラ等が一般的に使用されます。
種菌メーカーから菌床椎茸培地用に販売されている栄養体も数多く存在するので使用種菌毎に種菌メーカーの栄養体を使用するのも効果的な方法です。
主原料に対し副原料は短期間での栽培を行うのひらたけ等に比べ比較的少なく乾燥重量比10~15%程度になる様に添加します。
(2.5kg菌床ブロック1個に対して副原料が100g~150g程度が標準です。)
栄養体の使用割合によって栽培前半に多く収量を得られ後半の収量が減少したり、少なくした場合予定収量を得るのに長期間かかってしまう事があるので栽培スケジュールに準じた添加量というのが必要となります。
また、長期保管による品質の劣化した栄養体の使用や栄養体の過剰な添加は雑菌の発生率が高くなりますので適切な栄養体の適切な使用が求められます。
主原料と副原料を攪拌機でよく混合した後、加水を行います。
水分率は約58~62%程度に調整します。
粒度の荒いオガ粉を使用すると加水を行った際にオガ粉に水分が浸透するまでに大幅な時間を要してしまうので2~3日前から予め散水しオガ粉を湿らせておくという方法が用いられる場合もあります。
培地のPH調整の為に何か添加したほうが良いか?等の質問を受ける事が稀にありますが、充填工程の作業時間を短くする事がPH低下に対する一番の対処法ですので菌床椎茸の培地づくりにおいて何かを添加する事はあまり考えなくても良いでしょう。
どうしても気になる場合炭酸カルシウムを1%程度添加しても良いかもしれませんが特に必要ないと考えておりますので割愛します。
水分率は加熱乾燥式水分計を使用する事でおおよそ正確な値が出ます。
培地を手のひらで握って水分が出てくる程度が好ましく慣れてくれば計測器を使用しなくてもおおよその水分率が分かるようになります。
毎回チャレンジしてみて感覚がつかめるように練習してみましょう。
培地の調整が完了したら速やかに栽培袋に充填します。
調整後は基材の劣化が進行し気温(室温)が高い場合2時間ほどで基材から発酵臭(甘い香り)がしてきます。その後の栽培に悪い影響が出ますので培地の調整は必ず充填の準備が整ってから行い迅速に充填作業を行ってください。
夏季期間は冬季期間に比べ気温が高い為、発酵が早く進むのでスピーディーな作業が求められます。
栽培袋は通気用フィルターの付いたPP又はPE製の耐熱袋を使用します。
通気フィルターや袋素材は様々な物が各社から販売されております。
作業上どうしても外せない理由がある場合や培養時の菌糸の状態を確認する等の特段の理由が無ければPE製紙フィルタータイプで概ね事足ります。
フィルターの大きさに関しては様々な考え方がありますが20~25Φ程度の物で良いでしょう。
充填の際には菌糸の蔓延を促すために接種孔を空けますが、運搬時に接種孔が崩れないように注意しましょう。
充填が完了した後栽培袋は殺菌時に口が開かないように口部を折りこみ殺菌工程へ移行します。
殺菌
培地の充填が完了したら速やかに殺菌工程に移行します。
殺菌工程では高温で迅速に殺菌する事が求められます。
常圧殺菌機でも殺菌する事は出来ますが高圧殺菌機を使用する事をおすすめします。
本項では蒸気ボイラーを使用した高圧殺菌機で殺菌する事を中心として記載いたします。
殺菌は昇温工程と殺菌工程に大別されます。
昇温工程
培地内の温度を100℃まで上昇させます。
殺菌機内部の温度が100℃まで上昇しても培地中心部の温度が100℃に達するまでにはタイムラグがある為殺菌機内の温度が100℃に達した後に一定時間100℃を保持する必要があります。
また、常温から100℃まで一気に上げてしまうと培地が劣化してしまう為50℃・75℃・100℃の様に段階的に昇温すると良いでしょう。(多段ブローと言います)
培地の大きさにもよりますが中心部まで完全に昇温が完了するまで2~4時間程度かかります。
殺菌工程
100℃まで上昇した培地を120℃(118℃)まで上昇させて滅菌します。
培地中心部の温度を120℃まで上昇させた後約30~60分ほど保持する事で培地内の微生物のほとんどを死滅させることが出来ます。
上記条件が満たされないと芽胞を形成する一部の微生物が残ってしまったりするので殺菌不良に繋がります。
殺菌不良を起こすと以後の工程の意味をなさなくなるだけでなく培養室や発生室に雑菌を持ち込む事となり汚染の原因になるので殺菌工程は非常に重要となります。
殺菌工程は高圧殺菌で5~6時間程度・常圧殺菌で9~11時間程度を要します。
夏季冬季で培地の温度、外気温が異なるので時期によって殺菌時間を見直すことも必要でしょう。
殺菌終了後は殺菌装置から速やかに取り出し以後の放冷工程に移行します。
放冷
放冷工程では加熱殺菌した培地を椎茸菌を接種できる温度まで冷却します。
高温の培地に菌を接種してしまうと菌が死滅してしまうので20℃程度まで速やかに冷却します。
殺菌装置にもよりますが搬入口と取り出し口の両扉式になっておりますので取り出し口が直接冷却室に繋がっているものが好ましいです。
冷却施設内の空気は清浄フィルターを通した清潔な空気が適しています。
培地を冷却する際に袋の折り込み部の隙間から空気が入るので(戻り空気と言います)雑菌の多い室内で冷却を行うと汚染されてしまう可能性があるので注意しましょう。
加えて過剰な急冷を行うと培地が固くなり後の培養に影響が出てしまいます。
汚染の主たる原因になるカビ菌等は30~40℃程度が旺盛に増殖するのでこの温度帯を速やかに抜ける事の出来るように冷却してください。
常圧殺菌を行い冷却室までの間に外気に触れるような通路を通る場合は殺菌終了後間も無く殺菌装置内から菌床を取り出し菌床表面の温度が高温のうちに放冷室に運ぶことで外気中の雑菌による汚染を減少させることが出来ます。
接種
接種は施設・機械・作業者すべてが清潔な状態でなければなりません。
施設・器具の消毒、防塵服の着用、空気の清浄化等は全てのきのこ栽培における基本となります。
接種機や接種室の消毒は複数の消毒液を使用する事で雑菌に耐性が付いてしまわない様に対策が必要となります。
空気清浄機・殺菌灯・消毒液・火炎等を併用しましょう。
消毒液例は以下の通りです。
・エタノール(濃度70%程度の物)
・オスバン(ベンザルコニウム塩化物液)
・サンラック(次亜塩素酸ナトリウム水溶液)
上記はあくまで一例であり様々な消毒方法を併用する事で害菌に耐性がつくのを防ぎます。
消毒液の取り扱いは用法用量を必ず熟読し正しく使用してください。
過剰な使用や間違った使い方は消毒効果が薄れるだけでなく人体への悪影響が出る恐れがありますので注意してください。
種菌ビンの取り扱いにも気を付けましょう。
種菌ビンは接種前にアルコール消毒、火炎滅菌を行いキャップを取り外したら接種終了時までビン口を下に向けて取り扱いを行います。
これは空中のカビ菌が地球の重力によって落下する為、落下してきた汚染源が種菌ビン内に入ることを防ぐ役割があります。
種菌ビンのキャップを開けたらビン内の原基部を滅菌したカギ棒等で取り除きビン口及びビン肩を火炎滅菌し接種に使用します。
接種量の目安は【1.3kg菌床ブロック10~15ml】【2.5kg菌床ブロック20~30ml】程度が適正です。
同程度の菌床を使用して栽培される菌床あらげきくらげと比較すると接種量はやや少なめでよく菌床表面全体に満遍なく接種すると良いでしょう。
※菌床あらげきくらげの場合やや多めに接種孔上面にまとまって接種します。
接種孔に満遍なく接種する事で菌床内の菌糸の成長が良好となります。
培養
菌床の培養期間
空調栽培方式の菌床椎茸の培養期間は完熟(除袋)まで80~120日程度あり他のきのこ類に比べ培養期間が長く一次培養・二次培養と2段階の工程に大別されます。
一次培養の期間は種菌接種から白色菌糸が培地底面へ蔓延するまでの30~45日程度の期間
二次培養の期間は菌糸蔓延後褐変化(菌床が茶色く変色し被膜が隆起していく事)を経て除袋までの40~80日程度の期間になります。
(一次培養後除袋し褐変化(熟成)を進める方法もありますがここでは割愛します。)
培養室の環境条件
一次培養は温度18℃~21℃・湿度70%・二酸化炭素濃度1000ppm~2000ppm・暗黒条件下にて行います。
二次培養は温度20℃~24℃・湿度70%・二酸化炭素濃度1000ppm~2000ppm・日中のみ100~300Lux程度の照明下(作業等程度の光)にて行います。
断熱性のある設備でエアコンや超音波加湿器を使用して環境を整備しましょう。
一次培養時は二次培養時に比べやや低温で構いません。
一次培養二次培養共に20℃を保持できれば多くの菌種(菌株)に対応できます。
一次培養の際は菌糸の発熱や呼吸がさほどありませんのでコンテナ等に入れての管理が可能です。
二次培養は専用の棚や台車を設け一次培養とは分けて管理する事がオススメです。
棚に置かれた二次培養中の菌床は培養終了まで触れたり動かしたりしないようにしましょう。
二次培養中の菌床に振動等の刺激を与えると袋内で子実体(きのこ)が発生してしまい発生時の収量が減少してしまいます。
二次培養になってくると発熱、呼吸が旺盛になってきますので菌床同士の間隔を広げ通気性を確保し正常な褐変化を促してあげる事が必要となってきます。
培養棚に余裕がある場合こぶし一つ程度の間隔を設けられると良いでしょう。
培養棚に余裕がない場合でも指3~4本分の間隔は確保してください。
菌床同士の間隔が狭いと菌床から発せられる熱により熱障害を起こします。
熱障害を起こすと褐変化が阻害されてしまいせっかく培養した椎茸菌床の除袋時の発生が正常に行われなくなります。
培養が進むと菌糸の呼吸が激しくなり二酸化炭素濃度が激しく上昇するので適時換気が必要になります。
夏季や冬季は外気を直接取り込むことによる急激な温度変化が起こるのできのこ栽培用の熱交換器などを使用して熱損失を防ぐことも重要となります。
培養室の超音波加湿器は水垢等により雑菌の温床となりますので定期的な清掃が必要です。
培養室内は常に清潔を心がけ培地カス等が運搬用コンテナ等に付着し培養室に運ばれることが多いのでこまめな清掃が必要です。
培養室内に培地カスなどが残るとダニやきのこバエが発生し雑菌を菌床へと運んでしまう原因になります。
また、汚染された菌床を培養室内に残置してしまうと汚染された菌床そのものが汚染源となりますので
汚染された菌床は発見し次第培養室の室外に運び処分しましょう。
発生
菌床椎茸栽培は芽出し工程というものが無く直接発生工程に入ります。
発生室の室内環境は菌床の菌種・発生サイクル(何回椎茸を発生させるか)・作業人員の人数・就労時間等で変わることがあります。
各生産者毎にそれぞれの最適解を導き出してください。
本項では一例として除袋発生(1回目)から浸水発生(2回目3回目)の3回採り方式を基本としてお話させていただきます。
発生室の環境は温度日中20~22℃夜間13~15℃の変温管理・湿度70~80%・二酸化炭素量700~1500ppm以下照度400lux程度の環境を作ります。
秋の外気に似た環境づくりが適していると言えるでしょう。
高温抑制について
椎茸の菌床は一定の高温下に置かれると高温抑制状態になってします事があります。
26~30℃程度の高温下に数時間晒されると高温抑制がかかり初回の発生が行われなくなります。
菌床の見かけ上の違いは無い為分かりにくいですが、袋から取り出した際の発生不良のほとんどがこの状態で適温適湿の環境下で散水管理する事で2回目以降の発生が行われます。
簡易施設型栽培ではこの抑制を逆手に取り夏季に未熟な菌床を早期除袋し散水処理により秋季までに褐変化を進め秋冬春と一つの菌床で長期間菌床椎茸を発生させる方法があります。(樹皮化菌床栽培ともいう)
90~100日程度培養した菌床の袋から菌床を取り出し流水で茶色の分解水を洗い流します。
分解水が残っていると子実体(きのこ)に分解水の跡がついたりし子実体の美観が損なわれます。
そのため上面側面底面の全面が綺麗になる様に洗い流しましょう。
洗い流す水圧が高いと菌床表面を傷めますのでシャワー状の優しい水圧で作業を行ってください。
除袋時の散水がしっかりと行われており発生室の温湿度が基準を満たしていれば初回収穫後まで菌床への散水は不要です。
洗い終わった菌床は棚や台車へと置くと概ね2~4日程度で椎茸の芽が出てきます。
菌床椎茸は
・袋から取り出した際の二酸化炭素量の変化
・培養室から発生室へ運ばれた際の振動刺激
・培養室と発生室の温度差
・洗浄の際の温度刺激
上記等の【刺激】により発生がはじまります。
椎茸の芽が出てきたら品種にもよりますが芽数を調整してやる作業が必要となります。
この作業を芽かきと呼びます。
短期栽培型の品種は除袋時の発生が多い傾向にあり芽数がかなり多いものもあります。
芽数が多すぎると個々のきのこが小型化してしまい大きなにすることが出来ないばかりか子実体同士がぶつかり合い接触している箇所が変色してしまう為見栄えの良い椎茸になりません。
芽数の目安は
・1.3㎏菌床の場合15個程度
・2.5kg菌床の場合20個程度
が一般的です。
品種によってある芽数を境に形状が劇的に良くなることがありますので芽数を少しづつ調整し最適解を見つけ出してみてください。
芽かき作業は芽の大きさが2㎝程度になる前に済ませる事で菌床内の余計な栄養素を使用せずに2回目3回目の収量増に貢献します。
芽かきを終えてから5~7日程度で初回の収穫を迎えます。
菌床作りから収穫に至るまでここまで100~130日程経過した菌床椎茸です。
大切に収穫しましょう。
菌床椎茸の収穫の目安は以下の様になります。
椎茸は子実体(きのこ)の成長と共に傘が外側に開いていき傘と柄の付け根部分の膜が裂けてヒダ部が露出します。
ヒダ部の露出は椎茸が生殖器として成熟したことを意味し胞子を撒くための準備が完了したことの合図となるのでこのヒダ部が露出する直前又は直後が収穫の際適期になります。
根本をハサミやナイフでカットするか柄の部分を持ち石突き部分を左右に振り菌床ブロックを傷めないようもぎとります。
収穫後は傘部に触れると白色の鱗片が剥がれ落ちてしまうので優しく取り扱いましょう。
初回発生後は2回目の発生の準備に入ります。
初回発生と2回目3回目以降の椎茸は見た目や肉質が変わります。
休養と浸水発生
初回の発生が無事終わったのもつかの間2回目の発生に向けての準備をします。
空調施設栽培型菌床椎茸の発生は25~30日のサイクルで複数回行われるのが一般的です。
収穫量と回転効率の兼ね合いにはなりますが初回発生を含めて3~4サイクル程度行います。
収穫の終わった菌床はここから10~15日程度休養期間に入ります。
休養時の管理としては一日1~2回程度菌床全体に優しい水流で散水を行って菌床への水分補給と未褐変部位の褐変化を促進させてやります。
超音波加湿器等により室内の湿度が保たれている場合であっても菌床への直接散水は必須事項です。
菌床表面が乾燥する事により害菌汚染が起こる場合があります。
除袋から20日~25日程度経過したら浸水作業を行います。
浸水作業の前に菌床を手のひらで叩いたりして刺激してやると浸水後の収量増加に繋がります。
この叩く作業は浸水後や発生及び休養期間中に行うと収量が低下する恐れがあるとの報告もありますので浸水直前に行う事が良いとされています。
浸水作業は菌床を水の中へ8時間~16時間程度沈めます。
浸水を行う際の水温は常温で構いませんが可能であれば10℃~17℃程度だと比較的幅広い品種に対応できます。
浸水は冷水による温度刺激や窒息状態を意図的に作り出し除袋時の発生刺激を再現する役割があります。
必要以上に浸水時間を長くしてもあまり効果はありませんので上記時間の範囲内で行うのが好ましいです。
浸水後は水から上げて棚へ戻し2回目の発生操作に移ります。
水揚げ後は椎茸の芽が出てくるまでの間菌床へ1日1~2回程度散水し菌床表面が乾燥しないように気を付けます。
発生操作自体は何か特別な作業をするということは無く水揚げ後7日~14日以内に2度目の収穫となります。
3回目以降の発生も上記の手順を繰り返して行っていきます。
菌床椎茸1菌床辺りの収穫量は品種や発生回数にもよりますが、1菌床辺り3~4回採りを目安に
1.3kg型菌床で400g
2.5kg型菌床で800g
程度の収穫が適当です。
収穫後の菌床は石突き(軸の根元の部分)が菌床に残存すると害菌汚染の原因になりますので可能な限り取り除きましょう。
この時菌床が崩れてしまわぬよう注意しましょう。
きのこの発生室はきのこカスや菌床カスが残っているとキノコバエの発生や害菌汚染の原因となるので常に清潔を保ちましょう。
廃菌床の利用
菌床椎茸の廃菌床にはいくつか利用方法があります。
1.菌床を粉砕し畜産動物の飼育舎の敷材として活用
2.粉砕し散水堆積を行い堆肥化
3.粉砕し散水堆積を行いカブトムシ等の昆虫飼育用の餌化
4..粉砕し田畑へそのまま漉き込む(炭素循環農法)
5.粉砕・乾燥・ペレット化によるバイオマス燃料への利用
おわりに
菌床椎茸は菌床の作成から収穫後の廃棄まで非常に長い期間がかかるきのこです。
手間暇がかかるからこそ自動化が進まず椎茸農家の腕が試されるきのこの一種ともいえます。
栽培方法選び、オガ粉の選定、培地づくり、使用菌種、発生サイクル…様々なプロセスが複雑に絡み合うからこそ生産者は悩み試行錯誤を繰り返していきます。
作業の一つ一つに生産者の創意工夫がみられ生産者の人間性が垣間見れるきのこなのでここで記した方法が必ずしも正解ではなく一つの選択肢と捉えていただければ幸いです。
日本を代表するきのこともいえる「椎茸」
今後の普及と生産量の向上更なる技術の発展に期待しております。
最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。