菌床ひらたけの栽培方法
この記事ではひらたけ(学名:Pleurotus ostreatus)の特徴や栄養成分、機能性をはじめ
菌床を使用した菌床ひらたけの栽培方法が分かります。
栽培後の廃菌床の利用についても記載しております。
ひらたけの特徴
きのことしての特徴
ひらたけ科ひらたけ属のきのこで英名【オイスターマッシュルーム】とも呼ばれ、
非常に多くの種類の広葉樹の倒木などに発生する木材腐朽菌です。
材質が硬い樹種は不適とされ稀に針葉樹の倒木等にも発生します。
発生温度の幅は広く、低温期にのみ発生するひらたけは別名寒茸(カンタケ)と呼ばれる事もあります。
分布は日本をはじめ世界中に分布しています。
優秀な食用菌でぶなしめじがしめじの名で流通する以前は【しめじ】の名で販売されており、ひらたけの事をしめじと呼ぶ人も未だに存在します。
人工栽培の歴史は古くおが粉を使用した菌糸ビン栽培は1960年代から行われておりぶなしめじの普及以前は非常に多く栽培されていましたが現在では減少傾向にあります。
利用・栄養・健康
ひらたけは食味が非常によく和洋中様々な料理に利用されます。
きのこらしさが非常に顕著に味わえるきのこで世界中で幅広い料理に使用されています。
とても上品な出汁が出る事から和食では汁物やうどん・そばに使用すると大変美味しく食べることが出来ます。
調理例:炊き込みご飯・きのこうどん・きのこそば・リゾット・バターソテー等
きのこ類全般に言える事ですがカロリーは低く水溶性食物繊維が豊富
β1.3-グルカン・ヘテロ多糖・エルゴステロール・グルタミン酸・オルニチン・リノール酸・オレイン酸・カリウム・マグネシウム等を多く含む。
調理に使用する前に日光に10分程度当ててから使用する事で更にビタミンDが増加します。
ひらたけは摂取する事で血清脂質低下作用や抗腫瘍作用血栓予防作用がある事が報告されています。
(上記は動物実験の結果を含むもので人体に必ずしも効果があるわけではありません)
健康維持やダイエット中に積極的に食べたいきのこ類の一つとも言えるでしょう。
摂取の目安としては一日100g~150gとしきのこ類の大量の摂取は腹痛や下痢の原因になるので控えましょう。
一度に大量に摂取するよりも日々継続して摂取する事が大切です。
栽培方法の種類
空調型菌床栽培
本記事では空調型菌床栽培について解説していきます。
主原料となるオガと副原料となる栄養体をPP製ビン容器又はPP/PE製栽培袋に充填しエアコンや超音波加湿器、吸排気装置を利用しきのこ栽培に適した環境を年間通して再現した室内で栽培する方法でひらたけ栽培の多くがこの方法を利用しております。
※PP(ポリプロピレン)PE(ポリエチレン)
本項では菌糸ビン栽培を中心に補助的に菌床ブロック栽培についても触れていきます。
簡易施設型菌床栽培
空調設備を利用せず簡易的な発生舎で栽培する栽培方法で四季の温度変化を利用した栽培方法になります。
詳しくは別記事で解説いたします。
露地型短木栽培
短くカットされた丸太にひらたけ菌を接種し四季の温度変化を利用した栽培方法になります。
詳しくは別記事で解説します。
空調型菌床栽培の方法
菌床栽培
殆どの菌床栽培は以下(充填~収穫)までの6工程で行われます。
栽培に適したオガの選定から最適な収穫タイミングまで
各工程のポイントを解説していきます。
栽培時にお役立ていただければ幸いです。
充填
培地の基材(主原料)は広葉樹(ブナ)のオガ粉を使用したり散水堆積し成長阻害物質を抜いたスギやマツのオガ粉を使用するのが基本となります。
ひらたけは様々な種菌メーカーから種菌が販売されているきのこです。
栽培日数が30日~40日程度と短く高回転栽培が望めるきのこなので品種選定に置いて雑菌に対する耐性が強く菌糸の成長が早く収量が多い品種を選定する事が重要なきのこです。
本項に記載している栽培方法が必ずしも正解ではなくあくまでも一つの例として捉えてください。
オガ粉の粒度は2~5mm程度が好ましく細かすぎると発生に影響が出る為充填圧力を弱めにするなど工夫が必要になります。
培地栄養体(副原料)は米ぬか・ふすま・精選ふすま・ホミニフィード・乾燥オカラ等が一般的に使用されます。
主原料に対し副原料は乾燥重量比10%~20%程度がになる様に添加します。
(2.5kg菌床ブロック1個に対して副原料が200g~300g程度が標準です。)
副原料の影響を受けやすい為15%~20%程度混合したほうが収量が多くなる傾向にあります。
ひらたけ科のきのこはコーヒーの出し殻等様々な食品副産物での栽培が試みられていますが栽培期間や収量の点で本格的な利用は未だ進んでおりません。
主原料と副原料を攪拌機でよく混合した後、加水を行います。
水分率は約60~70%程度に調整します。
水分率が比較的高めの方が栽培期間は若干短縮できますが培地原料や使用品種、後の栽培環境にも左右されますので65%程度から始める事をオススメします。
水分率は加熱乾燥式水分計を使用する事でおおよそ正確な値が出ます。
培地を手のひらで握って水分が出てくる程度が好ましく慣れてくれば計測器を使用しなくてもおおよその水分率が分かるようになります。
毎回チャレンジしてみて感覚がつかめるように練習してみましょう。
培地の調整が完了したら速やかに栽培袋や菌糸ビンに充填します。
調整後は基材の劣化が進行し気温(室温)が高い場合2時間ほどで基材から発酵臭(甘い香り)がしてきます。その後の栽培に悪い影響が出ますので培地の調整は必ず充填の準備が整ってから行い迅速に充填作業を行ってください。
栽培袋は通気用フィルターの付いたPP又はPE製の耐熱袋を使用します。
菌糸ビンはPP製850㏄58口径の物を使用します。
充填の際には菌糸の蔓延を促すために接種孔を空けますが、運搬時に接種孔が崩れないように注意しましょう。
充填が完了した後栽培袋は口を折りこみ、菌糸ビンは専用のキャップで蓋をし殺菌工程へ移行します。
※菌糸ビンのキャップの形状は不織布フィルタータイプ・ウレタンフィルタータイプ・穴のない形状のタイプ(STタイプ)と様々な物がありますが基本的にどのタイプでも栽培する事は可能です。
袋栽培に比べ雑菌の混入率が高くなるので後述する培養室や発生室の衛生状態の維持など注意が必要です。
殺菌
培地の充填が完了したら速やかに殺菌工程に移行します。
殺菌工程では高温で迅速に殺菌する事が求められます。
常圧殺菌機でも殺菌する事は出来ますが高圧殺菌機を使用する事をおすすめします。
本項では蒸気ボイラーを使用した高圧殺菌機で殺菌する事を中心として記載いたします。
殺菌は昇温工程と殺菌工程に大別されます。
昇温工程
培地内の温度を100℃まで上昇させます。
殺菌機内部の温度が100℃まで上昇しても培地中心部の温度が100℃に達するまでにはタイムラグがある為殺菌機内の温度が100℃に達した後に100℃を保持する必要があります。
また、常温から100℃まで一気に上げてしまうと培地が劣化してしまう為50℃・75℃・100℃の様に段階的に昇温すると良いでしょう。(多段ブロー)
培地の大きさにもよりますが中心部まで完全に昇温が完了するまで2~4時間程度かかります。
殺菌工程
100℃まで上昇した培地を120℃(118℃)まで上昇させて滅菌します。
培地中心部の温度を120℃まで上昇させた後約30~60分ほど保持する事で培地内の微生物のほとんどを死滅させることが出来ます。
上記条件が満たされないと芽胞を形成する一部の微生物が残ってしまったりするので殺菌不良に繋がります。
殺菌不良を起こすと以後の工程の意味をなさなくなるだけでなく培養室や発生室に雑菌を持ち込む事となり汚染の原因になるので殺菌工程は非常に重要となります。
殺菌工程は高圧殺菌で5~6時間程度・常圧殺菌で9~11時間程度を要します。
夏季冬季で培地の温度、外気温が異なるので時期によって殺菌時間を見直すことも必要でしょう。
殺菌終了後は殺菌装置から速やかに取り出し以後の放冷工程に移行します。
放冷
放冷工程では加熱殺菌した培地を菌を接種できる温度まで冷却します。
高温の培地に菌を接種してしまうと菌が死滅してしまうので20℃程度まで速やかに冷却します。
冷却施設内の空気は清浄フィルターを通した清潔な空気が適しています。
培地を冷却する際に袋の折り込み部や菌糸ビンのキャップの隙間から空気が入るので雑菌の多い室内で冷却を行うと汚染されてしまう可能性があるので注意しましょう。
加えて過剰な急冷を行うと培地が固くなり後の培養に影響が出てしまいます。
汚染の主たる原因になるカビ菌等は30~40℃程度が旺盛に増殖するのでこの温度帯を速やかに抜ける事の出来るように冷却してください。
接種
接種は施設・機械・作業者すべてが清潔な状態でなければなりません。
施設・器具の消毒、防塵服の着用、空気の清浄化等は全てのきのこ栽培における基本となります。
種菌ビンの取り扱いにも気を付けましょう。
種菌ビンは接種前にアルコール消毒、火炎滅菌を行いキャップを取り外したら接種終了時までビン口を下に向けて取り扱いを行います。
これは空中のカビ菌が地球の重力によって落下する為、落下してきた汚染源が種菌ビン内に入ることを防ぐ役割があります。
種菌ビンのキャップを開けたらビン内の原基部を滅菌したカギ棒等で取り除きビン口及びビン肩を火炎滅菌し接種に使用します。
接種量の目安は【850㏄ビン10ml~15ml程度】【2.5kg菌床ブロック20~40ml】程度が適正です。
接種孔に満遍なく接種する事で菌床内の菌糸の成長が良好となります。
培養
培養室の環境条件
培養は温度18℃~22℃・湿度60~80%・二酸化炭素濃度1500ppm~3000ppm・暗黒条件下にて行います。
断熱性のある設備でエアコンや超音波加湿器を使用して環境を整備しましょう。
菌床が密集する事によって菌糸が放つ熱量により菌床近辺の温度が上昇するので菌床間の通気性を確保する事が必要です。
培養が進むと菌糸の呼吸が激しくなり二酸化炭素濃度が激しく上昇するので適時換気が必要になります。
夏季や冬季は外気を直接取り込むことによる急激な温度変化が起こるのできのこ栽培用の熱交換器などを使用して熱損失を防ぐことも重要となります。
菌床ブロック栽培において複数回発生操作を行う場合3~4ヶ月程度培養する事が好ましいです。
詳しくは簡易施設型栽培のページに記載します。
培養室の超音波加湿器は水垢等により雑菌の温床となりますので定期的な清掃が必要です。
培養室内は常に清潔を心がけ培地カス等が運搬用コンテナ等に付着し培養室に運ばれることが多いのでこまめな清掃が必要です。
培養室内に培地カスなどが残るとダニやきのこバエが発生し雑菌を菌床へと運んでしまう原因になります。
また、汚染された菌床を培養室内に残置してしまうと汚染された菌床そのものが汚染源となりますので
汚染された菌床は発見し次第培養室の室外に運び処分しましょう。
芽出し
培養が完了した後順次芽出し・発生工程に移行します。
ビン栽培の場合発生を均一にするために菌かきを行います。(培地表面をそぎ落とし原基形成の形をよくする方法)
接種した種菌部分をそぎ落とします。
菌かき後は菌床を保湿する為にビン内に注水し1~2時間程度置きます。
注水する事で発生が促され7日程度で原基形成が始まります。
菌床ブロックの場合菌床上面から発生又は菌床側面に切り込みを入れるなどして発生を行います。
側面に切り込みを入れた場合切り込み箇所に散水する事により原基の形成を促進します。
菌床の様々な箇所から原基形成が始まる事もありますが、勢いの弱い原基は結果的にしなびてしまう事もあるので勢いの強い原基を優先して育成してやることが結果的に収量増に繋がるでしょう。
排水後芽出し室又は発生室に移動します。
専用に芽出しの管理室を設ける場合は温度13~16℃湿度85~95%二酸化炭素濃度1000~1500ppmとし、光源は作業中の蛍光灯の照明程度で十分です。
原基が形成され始めたらビンのキャップ部を浮かせるなどして原基がつぶれないように管理します。
※キャップを浮かせることによって原基形成の【空間の確保】・【保湿】・【風よけ】の効果があります。
発生
発生室の環境は温度10~15℃・湿度80~95%以下・二酸化炭素量700~1500ppm以下照度400lux程度の環境を作ります。
秋の早朝に似た環境づくりが適していると言えるでしょう。
照明は蛍光灯又はブラックライトなどの光を照射しましょう。
作業できる程度の光があれば光量はさほど気にする必要はありません。
原基が形成された後は環境を適切に保ってやることで比較的容易に子実体(きのこ)が生育します。
発生室は培養室と同様に常に清潔を保ってください。
特に後の収穫作業を伴うので培地カスや収穫されたきのこの残渣が発生室に残りやすく発生操作中の汚染源になったりきのこバエの発生に繋がるのでしっかりと取り除くことが重要です。
ひらたけは線虫捕食菌の一種としても知られており、発生室にキノコバエが発生しキノコバエから線虫を媒介するときのこのヒダの部分に白いコブができる白こぶ病と呼ばれる状態になります。
原木栽培で間々見られる症状ですが、菌床栽培においても発生室に大量のキノコバエが発生したりすると白こぶ病になる場合があります。
繰り返しになりますが発生室は常に清潔を保ち捕虫テープなどを用いて害虫が増えない環境づくりを行う事が重要です。
収穫
いよいよ収穫となります。
栽培品種や栽培環境にもよりますが、菌糸ビン栽培の場合は菌床作成から概ね30~40日程度で収穫となります。
収穫の目安は傘が開ききる前(傘が反りかえる前)に収穫します。
成長速度が速い為収穫適期を逃さないように注意してください。
収穫は菌糸ビンから株のまま引き抜き根本のオガ粉をナイフ等で取り除きましょう。
収穫量の目安は2.5kg菌床の場合1回目の収穫で250~350g程度・850㏄菌糸ビンの場合80~110g程度です。
菌床ブロック栽培は3~4回程度収穫できますので収穫後はきのこの残渣が残らないように処理します。
菌糸ビン栽培でも2回程度収穫は可能ですが、2回目の収量は大幅に低下します。
ひらたけの菌床は収穫後速やかに発生室から取り出します。
ひらたけは成長が早いきのこなので2回目の発生も可能ですが収量は1回目の発生よりも大幅に減少する為新たな菌床を用意したほうが適切と言えるでしょう。
廃菌床は害虫や雑菌が発生しやすく発生操作中のひらたけに悪影響を及ぼすので発生室に残置しないようにしましょう。
廃菌床の利用
ひらたけの廃菌床にはいくつか利用方法があります。
1.菌床を粉砕し畜産動物の飼育舎の敷材として活用
2.粉砕し散水堆積を行い堆肥化
3.粉砕し散水堆積を行いカブトムシ等の昆虫飼育用の餌化
4..粉砕し田畑へそのまま漉き込む(炭素循環農法)
5.粉砕・乾燥・ペレット化によるバイオマス燃料への利用
おわりに
ひらたけは成長も早く非常に味の良いきのこである。
しかしながら成長の早さが逆にあだとなり常温では品質の保持が難しい。
これはきのこは菌糸の集合体であり子実体の収穫後もきのこそのものが生きている為である。常温においてしまうとひらたけから白い菌糸が出てきてしまいます。
これは気中菌糸と呼ばれるものでひらたけが次なる栄養素を探して腕を伸ばしている状態です。
ひらたけは冷蔵庫の様な低温化に置く事で活動が静穏化し食材としての品質を保つことが出来ます。
収穫後は迅速に低温下で保存してあげてください。
ひらたけは消費量が低迷し生産量も以前より減少傾向にあるきのこです。
しかしながら食味・風味が大変優れ本来のきのこらしさを楽しむ事の出来るきのこです。
今後のひらたけの消費量・生産量の増加を期待しております。
最後までお読みいただき誠にありがとうございました。